義理人情もなく

「ハッピーバレンタイン！」

「…ハッピーバレンタイン。で？」



義理人情もなく（２００９年バレンタインデー）



　２月１４日２３時５５分。いわゆるバレンタインデーとやらもあと５分足らずで終わろうというこの時間に、まだまだバレンタイン気分から抜け出せずに明るい声を出す男がひとり。バレンタインデーにチョコレートなんてお菓子会社の陰謀じゃないか、と本命どころか義理チョコさえ誰にも渡さなかった私は、近所のスーパーで夕方から半額になったバレンタイン仕様のチョコレートを自分用に購入し、脂肪がつく要因であると知りながら、現在美味しく頂いている最中である。

「“で？”って？“ハッピーバレンタイン”！」
「だから、“で？”」
「いや、だから、“ハッピーバレンタイン”！！」
「だから、なに？」
「もう、ミワちゃん、今日はバレンタインデーだよ？わかってる？」
「わかってるけど、それがなに？」
「バレンタインデーって言ったら、女の子が好きな男にチョコをあげる日でしょ！」
「それで？」
「だ、か、ら！俺にチョコレート！忘れてるでしょ？」
「いや、なにも」
「ミワちゃん、バレンタインデーはあと４分で終わっちゃうんだよ？もう焦らすのもいい加減にしてくれないと」
「別に焦らしてないし、あんたにあげる気なんて毛頭ないから」
「え？」
「さようなら」
「え！？ちょっと待っ…」

――ツー、ツー、ツー

　私は自分用のチョコレートをもう一粒口に入れた。